クリスマスプレゼント【後編】
「何で先ほどからこの車は全く進んでいないのでしょう?」
急いで梓川家へ帰ろうとした月乃だったが、運の悪い事に首都高速で渋滞に捉まっていた。
「申し訳ありません。クリスマスイブの渋滞に加えて、事故が起こったようです。」
「こんな事なら、電車で帰ればよかったですね……にしても、何故お爺様は私に何も言わなかった
のでしょう……。」
《梓川邸》
「月乃はまだ来ないのかね。」
「お爺様。月乃はきっとこのような趣向が苦手なのですわ。奥手なところがあの子の良い所ですし。」
「こういう事に無理強いするのも良くないかのう。」
《燃やした招待状が届くわけねぇだろうが。このまま失格となればいい。くっくっく。》
「まぁ、月乃が来てもボクの勝ちは決まっているけどね〜。和くんはボクのものなんだから〜。」
《バタ〜〜ン!》
その時、勢い良く応接間の扉が開く。
「はぁ、はぁ〜。ま、まだ東さんは来てないようですね。」
《ちっ、来やがった。》
「おお、月乃。来てくれたか。」
「お、……お爺様、今日の東さんへのプレゼントってどのような事なのでしょう?」
「なんじゃ、月乃は招待状を見ておらんのか?」
「私にはそのような招待状は届いていませんわ。」
それまで月乃を睨んでいた目をさりげなく逸らす雪乃。
パンタジアのオーナー梓川貞尚が月乃に耳打ちする。
「えぇっ、それは本当なのですか?」
「ふむ、他の二人は承諾……というより、これは雪乃と水乃からもちかけられた話なのだよ。」
月乃は辞退するかね。」
顔を真っ赤にし、暫らく考えていた月乃が小さな声で言った言葉は、
「参加いたしますわ……。」
という言葉だった。
暫らくして、お手伝いの一人が和馬の到着した事を告げた。
大きな屋敷に多少戸惑いながら、和馬は元気良く入ってきた。
「東くん。よく来たね。まぁ、掛けたまえ。」
「おう、月乃のじいちゃん。俺に何かくれるって言うんで来たんじゃ。」
「まぁ、用件は後でもよかろう。東くんそれより、君の新人戦での活躍、見させてもらったよ。」
「おう、見てくれてたのか。あの勝負おもしろかったじゃろ。」
「フォッフォッフォッ。確かに、あれほどの面白い勝負は今後見られんだろう。」
月乃の祖父、梓川家を統率するパンタジアのオーナー梓川貞尚は、和馬に対して穏やかに話しかける。
「ところで、東君は本店勤務をしてパンタジアを盛り上げてくれる気はないのかね。もし、本店勤務が嫌なら、
南東京支店と兼務という事でもよいのだが。」
「俺は、南東京支店が好きなんじゃ。そして何よりそこにいる仲間が大好きなんじゃよ。」
「そうか、それは困ったな。本店勤務程度ではプレゼントにならないらしい。」
「なんじゃ、プレゼントって言うのは本店勤務の事じゃったんか。」
なんだという表情でガッカリとした表情を浮かべる数馬。
「いや、そうではない。」
「なら、なんじゃ?」
「これからあるパンを東くんに見てもらう。気に入ったパンが置いてある扉の部屋の中に君へのプレゼントが
あるというクリスマスに相応しいゲーム形式だ。どうかね、やってみるかね。」
「面白そうじゃ。やるぞ。」
数刻待たされた後、和馬が案内された部屋にはそこから通じる部屋が3つあり、それぞれの部屋の前には
1つのパンが置かれていた。
「では、東くん早速始めようかの。」
「どれも美味そうじゃ〜。じゃ、早速……あ〜〜〜ん。」
「待ったぁぁああ!」
「なんじゃぁあああ!?」
突然、天井からロープを蔦って降りてくる人物がいた。パンタジア本店勤務の黒柳亮である。
「お前に味見は無しだ。お前が食べたら誰が作ったのか直ぐに当ててしまうからな。それではゲームにならん。
お前は俺が食べたリアクションを見て1つ食べるパンを決め、そして部屋に入るのだ。」
「そ〜んな、面倒な事せんでも。」
「うるさい、うるさい、うるさぁああああい。これは、オーナーの決めたことなのだ。オーナーの言う事は絶対だ。
だから逆らう事はできん。」
「すまんのう。東くん。」
「分かった、分かったから早くやってくれよ。」
「何処までも反抗的な奴だ。では、1つ目の皿のパン、行くぞ。」
「ハーブパンか。なかなか見事な出来栄えだな。」
《パク》
1つ目のパンを黒柳が1欠片口にすると、突然黒柳が椅子に座りどこからともなく取り出したハープを引き始める。
「こ、これはなんと素晴らしいハーブパン。しかも繊細な乙女のパンだ。」
(↑この台詞をクリックするとバダルゼフスカの乙女の祈りがハープ音で流れます)
「おお、私は今古城に一人ハープを弾きながらハーブパンを食べるお姫様なのよ。」
【姿がお見せできないのが残念……ではなく、見なくて良かったかも。】
「いいから、俺にも食わせろよ!」
「ええぃ!駄目だ。では、次のパン。」
「これは『パン・ド・ジェーヌ』(フランスの焼き菓子パン)か。見た目は至って普通だが……。ふむ、匂いは
ラム酒を使ったオーソドックスなタイプだな。」
《ぱくっ》
「ウンメェエエエエエーーーーーーーー!!!」
「うわ、なんじゃ?」
「こんな美味しいラム酒を使った『パン・ド・ジェーヌ』は、ウチ食べた事がないっちゃ。」
「気色悪りぃぃぞ。」
いきなり羊の鳴き声を出したかと思うと、妙な語り口調で説明を始める黒柳。
そこには虎縞ビキニに角、そして緑の髪に変わった黒柳がいた。
《私だってこんなリアクションは嫌だ。だが……我慢できん》
「これは幻のラム酒を使っているっちゃ。恐ろしいほどウンメェェェーーーラム酒で作った美味しいパンだっちゃ。」
【高橋留美子先生ごめんなさい】
「もう我慢できん。食うんじゃ!」
「誰か、東を抑えるっちゃ〜。」
周りにいたお手伝いにパンを食べるのを抑えられ、足元をじたばたさせる和馬。
「ふぅ、やっと変な口調が治まったぞ。さて、最後のパンは……なんだ?これは……ただのカレーパンではないか。
カレーパンでは余り工夫の余地も無いとと思うが……。」
《かりっ》
「……。」
「ん?どうしたかね。黒柳くん。何故黙っているのかね?」
「どうしたんじゃ。」
「こ……これは……なんと言ったらいいのか……。」
《ぽとっ》
黒柳の手から落ちたカレーパンを見て、和馬は驚く。
「このカレーパン、中身が真っ黒じゃぞ。」
「ブ、ブラック……カレーパン……ブラック、ブラックカレーパン。これはリアクションなど必要ない。くれ、その
パンは俺のだ。俺はカレーパン将軍!くっくっく、ブラックカレーパンは世界最高のパンだ!くぁっかっかっかっか。」
「おい、リアクションは必要ないって言いながら、なんで鼻と口に変な黒いマスクつけているんじゃ?」
「く〜っくっくっく。ブラックカレーパンこそ最強、これ以上美味いパンなどこの世に存在しな〜〜い。」
「パンがあまりに美味しいので、正気を失ってしまったのかのう。まぁ、仕方がない黒柳くんは奥の部屋に連れて行きたまえ。
では、東くん今までのリアクションでどのパンを選ぶか決まったかね?」
【このネタが分からない方はブラックカレーで検索してみてね】
「おう、決まったぞ。」
「では、そのパンを食べてその部屋に入りたまえ。東くんへのプレゼントが待っている。」
1.「ハーブパンを食って部屋に入るんじゃ。」
2.「パン・ド・ジェーヌを食って部屋に入るんじゃ。」
3.「ブラックカレーパンを食って部屋に入るんじゃ。」
こうして、和馬は一種類のパンを選んで部屋に入っていった。
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