【HiMEの時間】


教会の下、ジメジメとした地下室に3つの影があった。
初老の神父と蒼い髪の女学生。
そして金髪に黒の髪留めを付けたゴスロリの服装をした少女である。
「今はワルキューレの発見及び確保を最優先事項にしております。いい報告ができるのは間も無くかと。」
「ですが、ワルキューレにチャイルドを具現化させ、尚且つ倒す算段はできあがっているのですか?」
「例のオーファンを既に放つ準備がある。後は蝶が蜘蛛の糸に絡むのを待つだけだ。」
「もう、委員会はこれ以上、待てないと言っています。急いでください。」
「わかっている。」
蒼い髪の女学生は無表情で淡々と話している。

「神父様。よろしくお願いしますね。」
すると、金髪の少女がにっこりと微笑み、神父に話しかけた。
険しい表情の神父の口元が《にぃっ》と緩む。
その顔は自信ありげな笑みが浮かび上がっていた。


「申し訳ないですが、売り切れです。」
「はいぃぃ?1着もないの?ほんとに?全部?全然?なんで〜?」
「今、校内の購買部では、下着は殆ど売り切れなんです。」
あちゃ〜。ここも売り切れですか。これであたしの知っている校内の購買は全部回ったって事よね。
さすがのあたしもここまで酷いとは想像してなかったですよ。
「舞衣、私は手に入らなければ別にいらないぞ。それよりも美味いものでも食べないか?ん!それがいい。」
「そういう訳にはいかないの。それに命(みこと)にブラを着けさせるってみんなに約束したんだし。」

あたし鴇羽 舞衣は、今日既に校内の購買部を3軒も回っていた。
目的は命【美袋 命】の下着(正確に言うとブラジャー)の購入。
でも、未だその目的は達成されてない。
それというのも先日、校内の女子生徒の下着がオーファンに次々と盗まれると言う事件が起こったんだけど、
その影響で校内の購買部から下着の在庫が無くなったというわけ。
あたしのお気に入りのブラも被害にあっていて、ついでに買っておこうと気軽に引き受けたのがまずかった。
「舞衣、人間は諦めが肝心だ。んっ、そうだ。そうに違いない。」
「まだよ。こういう事はその道のエキスパートに頼みましょ。行くわよ命。」
「あっ、おい。舞。」
あたしには心当たりが後一つだけあった。
まぁ、それは最終手段だったから余り頼りにしたくは無かったんだけど。


「でっ?何で私の所に来るんだ?」
やっぱり〜。不機嫌そうな顔してる。
私の前で仏頂面をして、なつき【玖珂 なつき】が面倒くさそうに答えている。
なつきに頼みごとなんてあたしもやきが回ったかなぁ。
「あはは、ごめ〜ん。なつきなら下着を買う事に詳しいかと思ったんだけど……お邪魔しました〜。」
「待て。舞衣、お前どんな下着を買うつもりだ。」
「いや、適当〜に、安売りのバーゲン品があったらと思ってね。」
その時、あたしはなつきの目が《ぎらり》と光ったように感じた……。
「そうだな。今日偶然にだが私は暇だ。お前たちの買い物に付き合ってやる。ただし!下着の選択は甘く見ないことだ。」
何に対して甘く見るのかあえて突っ込まなかったんだけど、とりあえず付き合ってくれる気にはなってくれたみたい。


そしてその様子を一人の少年が木の上から伺っていた。
「舞衣ちゃんの下着選びなんてちょっと興味はあるけど……。何だかきな臭い動きもあるようだし。
少し残念だけど行きますか。はぁ〜本当に残念だけど。」
そう言い残すと、次の瞬間、その少年の姿は木の上から消えていた。


俺【楯 祐一】は今日詩帆【宗像 詩帆】に買い物に付き合えと言われている。
ここまではいつもの通りなんだが、この間詩帆と気まずくなる事件があって、今日は剣道部の主将、
武田先輩【武田 将士】に付き合ってもらう事にした。
でも、やっぱりというかなんというか……。
「お兄ちゃん!誰よ!その人!!」
「誰って、剣道部の武田先輩だ。」
「そうじゃなくってぇ〜。今日はあたしとのショッピングだったはずでしょう??」
「おい、俺外そうか?」
「いや、いいんですよ。なぁ、詩帆。今日は先輩と3人で買い物だ。嫌なら俺と先輩の2人で行く。」
「お兄ちゃん!!」
「さっ、行きましょうか先輩。」
「わかったわよ〜。お兄ちゃんの意地悪ぅ〜。」
とりあえず詩帆の涙目は気になるが、これ以上突っ込まれるのは迷惑だからな。
後は時間が解決してくれるだろ。


「へぇ〜。こんな所にショッピングモールなんてあったんだ。」
「舞衣はここに来て間もないから知らないだろうが、この風華学園は一つの巨大なタウンになっているんだ。
学園敷地内だが、学園の出資で運営しているだけであって、一般市民も多数ここに買い物に来ている。」
「あ、あんな所でセールやってる。覗いて見よ……!」
その時、あたしの肩をぐいっと掴む手があった。
「えっ!?」
「あんな売れ残りの粗悪品を買うなんて馬鹿げている。下着を買うならこっちだ。」
え〜〜〜!ちょっとなつき、目が据わっているんですけどぉぉぉ。

「ん!この人は親切だ。タダで食べ物をくれるのか。」
「別にタダって訳じゃないんだけどね。でも、試食品をこんなにおいしそうに食べてくれる人始めてみたよ。」
「んんっ!美味い。凄いぞ。お前天才料理人だ。」
「嬉しい事言ってくれるねぇ……この子は。もうちょっと食べるかい?」
「おおっ、勿論だ。」
あたしが人選を間違ったのでは?と後悔している頃、命はショッピングモールを満喫していたみたいだった。


「ところで、今日は何を買うんだっけ……。おい。あれ。」

《シャッ!》

俺の前に小さな影が横切った。前にも見た事のあるその影。
「楯、今の見たよな?」
「あぁ……見ました。」
「お兄ちゃん?どうしたの?なに?なに?」
「詩帆、ここから離れろ。」
「え〜なんで〜。」
「いいから、早くしろ。」
無理やり詩帆を店の外に追い出すと、その影を俺は先輩と追った。
小動物のようだったが、動きが素早くその姿をなかなか捉えられない。
だが、先輩とのコンビネーションでその足取りを追う事はできた。


「フルカップブラ、シームレス、ノンワイヤー、オフショルダー。とりあえずこれだけは試着しておけ。」
「こ、こんなに……ですか?」
「そうだ、何か問題があるのか?」
「いや、命の分もあるし適当でいいかなぁと。」
「私も自分の分を試着する。だから舞衣もやっておけ。ブラは私が合っているか確認してやる。命の分はその後だ。」
「……OK。分かったわよ。」
もう、どうにでもなれって感じ。だって、なつきの目がマジなんだもん。
あたしはなつきと大きめの試着室に小さなため息をつきながら入っていった。


「右!奥に行った。」
「今度は左、その後真っ直ぐだ。」
少しずつだが確実に追いついている。
そして俺達はついに小部屋にそれを追い詰める事ができた。
《この中か?》
先輩が親指をくいっと横に曲げ指差す。
首をゆっくりと縦に曲げ、俺は頷く。
剣道から離れているとはいえ、最近の学園内で起こる事件の連続で護身用に竹刀袋の中に入れておいた木刀が役に立った。
俺は木刀をゆっくりと構え、先輩に目で合図をして一気に試着室に飛び込んだ。


「……な、何!?」
「……玖珂?」
「……マジ……かよ。」
「はいぃ〜?」
「……い……いやぁぁあああああ!!!」
「きゃぁああああ!!!」

舞衣の大きな白い乳房となつきの形の良いつんと張った胸に目が奪われ、その場に立ち尽くす二人。
店内に大きな悲鳴が轟き、その声を聞いた店員がびっくりしたようにこちらを見ている。
「この、色情魔!!殺す!」
「ご、誤解だ。玖珂。俺達は怪物を追って。」
「怪物を追って、ここに来たというのか!」
「いや、玖珂が怪物というわけじゃなくて……違うんだ!」
「……ちょっと、あんた。これ……どういう……事よ。」
「鴇羽……何でお前がここに……。」
「いい……から、早くそこ……閉めなさいよ。」

「わ、わりぃ……。」

《!!》

「おい、……鴇羽!後ろ!!」
「なっ!」
「しまった!本当に!オーファ……」

大きな黒い空間が4人の頭上を覆う。
後に残されたのは、人のいなくなった試着室とその壁に残された黒く大きな幾何学的な模様だけであった。


〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
薄暗い闇の空間にほのかに光る明かりが包んでいた。
光コケか?俺は近くに行って触ってみようとする。
だけど、この空間は洞窟ではないみたいだ。
地面が柔らかい素材でできている。土じゃない。
「ここは?何処なんだ?俺達、一体何処に来ちまったっていうんだ。」
隣には鴇羽がいた。
鴇羽も訳が分からないらしくきょろきょろとしている。
ええぃ、ほんと訳わかんねぇ。
とりあえず周りを見回すと、先輩と玖珂が見当たらない。
遠くには行ってないはずだ。


1.鴇羽 舞衣と楯 祐一でこのピンチに立ち向かう(クリック)



〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜
冗談ではない。この私が……油断した。
周りを探索してみたが、舞衣と楯がいない。
くっ、まさかとは思うが。
よりにもよって武田だけが隣に倒れていた。
「まず、2人を探さないとな。」


2.玖我 なつきと武田 将士でこのピンチに立ち向かう(クリック)


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