その空間は携帯電話も通じず、出口も見当たらない。
仄かな光だけがある空間だった。
声を限りに叫んでみたものの、武田先輩も玖珂も……いや、それどころか他の一切の人間の見当たらない所のようだった。

「とりあえずこれを着てくれ。」
俺は学生服の上着を、鴇羽に背を向けたままで手渡す。
上半身裸のまま胸を両手で押さえている状態では、何もできないからだ。
「あ、ありがと。でもこれだけは言わせて貰うわ。ねぇ、楯、あんたほんっとにワザとじゃないんでしょうね。」
「ば……ばっかやろう。ワザとじゃねぇよ。それに唐突でじっくり見ている暇なんか……。」

だが、俺の脳裏に鴇羽の肌も露になった上半身が、唐突に浮かび上がる。
唇をぎゅっとかんで我慢をしようとするが、顔の紅潮を抑え切れなかった。
「あ〜!やっぱり見たいからワザとやったんでしょう!このエッチ!変態!」
「たく、しょうがねぇじゃねえか、目に飛び込んできたんだから。」
ムードは最悪だ。
鴇羽と暫らく背中越しに無言の時間が続く。
俺はとにかく、時間が過ぎてくれるのを待つしかなかった。

だが、じっと動かないでいるのにも限界がある。
どの位の時間が経っただろうか、鴇羽の方から俺に話しかけてきた。
「あのさ、あんたたちを巻き込んでごめんね。」
俺には予想外の言葉だった。
「鴇羽のせいじゃねぇだろ。」
「多分あたし達のせいだと思う。私たちを狙って来たんだと思う。」
「おい、何でも自分だけで抱え込むのは止めにしようぜ。そりゃ、俺は何も知らないしできないけどな。」
「ううん、そんな事ないよ。あたしだって何も知らないし何をしていいんだか分かってない。
なつきや碧ちゃんみたいに色々な事も分からないし。」
「鴇羽は玖珂じゃない。だからお前は今、自分できることだけやればいいんじゃないか。」
「……ん。」

いつもと違う雰囲気の鴇羽に戸惑って、俺はどんな声をかけていいいのだか分からなかった。
俺は普段の明るい笑顔の鴇羽の内側ある、本音の部分を垣間見たような気がした。

だが、その時静寂を破る事件が起きた。
暗闇の中から、多数のカサカサという足音が聞こえてくる。
驚いている俺に対して、鴇羽の顔はさっきの顔と打って変わって精悍な顔つきになっていた。
「おい、あの音。俺がさっき聞いた影の音だ。」
「あたし、やってみる。まだ遣り残した事たくさんあるから。」
「俺だって死にたくない。俺が鴇羽を守ってやる。だから、お前も死ぬな。」
「これから起こる事、みんなには黙っていて。」
「鴇羽、お前一体何をやるつもりだ?」


あたしは念を込める。そしてエレメントを身にまとう為に精神を集中する。

《!!》

「何やっている!避けろ!」
間一髪、あたしを襲ったオーファンを楯の木刀が打ち落とす。
「……で、出ない。エレメントが……何で?」
「馬鹿、死にたいのか。ぼうっとしているな!」
立ち尽くすあたしの前で楯がオーファンを2つ、3つと打ち落としていく。
楯ってこんなに強かったんだ。
でも、何であたしのエレメントが出ないの?
あたし……今、何もできない。

「痛っ。糞、負けるかよ。」
あたしを背にして守っている楯が、時折足を気にしている。
これじゃあたし、足を引っ張っているだけだ。
「あたしの事は気にしないで。」
「できっかよ!約束しただろ!」
楯の頭上に数体のオーファンが重なり合うのが見えた。
1つの大きな固体となって頭上から攻撃を仕掛けてくる。
「上、避けて!」
「くっ、早い。」
一瞬早くオーファンの右腕が楯の頭の部分を殴った。
あたしの胸の中に楯が仰向けにどさっと、倒れこんでくる。
楯を抱えたあたしの手に赤いものがべっとりと付いた。

「ちょっと、冗談でしょ。ねぇ……ちょっと……。い……いやぁああああああああ!!」
赤い炎、紅蓮の渦、切り裂く業火……。その瞬間、あたしのエレメントが発動した。


「ん……。」
「気が付いた?」
どの位の時が経ったのだろう。
目を開けると俺の目の前に鴇羽の顔があった。
俺の頭には白い布が巻かれている。
どうやら、俺は頭にあの怪物の攻撃を受けて気を失っていたらしい。
状況を理解するのに一瞬戸惑ったが、どうやら俺達は助かったみたいだな。
それともう一つ気が付いた事。
俺の顔を覗き込んでいる鴇羽の目が赤く腫れていた。

「おい、何で泣いているんだ?」
「何でもないわよ。でも……良かった。」
「良くないぞ。俺達はまだ、この変な所から出られてないんだろ。」
「えへへ、その内、まぁ何とかなるんじゃない?」
馬鹿……鴇羽、お前慰めるのが下手だな。
思いっきり絶望した顔しやがって。
誰が見たって手がねぇって顔しているぞ。

「……あのさ、楯って将来の夢って何?」
「いきなり、唐突な質問だな。」
落ち着いた頃、鴇羽が俺に話しかけてきた。
「あたしの夢ってさ、巧海が元気になって色々な事学んだら、素敵な恋人作る事なんだ。」
「お前なら、できるんじゃねぇか。」
「へへ、ありがとう。それでね、ウエディングドレス着て結婚式挙げて、幸せな家庭を作るの。」
「料理上手いんだろ。旦那は幸せになれそうだな。」
「それで、子供を2人作って……子供たちと遊んで……歳を取って……。」
俺は鴇羽の目からぽろぽろと涙が流れているのが見えた。

「あたしのお母さんと……約束……《ぐすっ》……したんだ。お母さん……《うっ》……あたしたちに……
そう……できなかったから。」
「そっか……。俺の夢は……今は一つだな。」
「……。」
「生きて鴇羽をここから出す事。さっき、守るって約束しちまったからな。」
自分でも普段は言えない様な台詞だと思う。
でも、その時は何故か素直にそう思えた。


不意に舞衣の顔が祐一に近づいてきた。
それが何を意味するのかは鈍感な祐一にでも分かる。
唇と唇が触れあい、二人はキスをしていた。
ごく自然に、それが当然の行為のように。

真っ赤な顔をしている舞衣が祐一には妙に可愛らしく、いとおしく思えた。
「ごめん……ここまでにしよ。詩帆ちゃんとの約束破っちゃった。この事は詩帆ちゃんに黙って……んっ。」
今度は下になっている祐一が舞衣の肩を掴んで自分の方に引き寄せる。
引き離そうと抵抗した舞衣の腕の力は弱く、やがて祐一の首にその手が回ってくる。
祐一が舌先で歯の表面でノックすると、侵入を拒んでいたものが徐々に開いてくる。
互いに舌を絡ませ、舌を弄ぶように行為を深めていく。

「だめ……だよ。詩帆ちゃんに……。」
「詩帆は関係ない!俺……鴇羽の事。真剣なんだぜ。鴇羽こそ神崎先輩の事……。」
「関係ない……関係ないよ!あたしだって」
舞衣が祐一抱きつき、互いの体温を感じあう。

祐一が学生服のボタンを外すと、舞衣の大きく形の良い乳房がぽろりとこぼれた。
自分の貸した制服を自分で脱がすというのも、妙な感じがしたが目の前の圧倒的な存在を示す舞の乳房の前では
そんな考えは飛んでしまう。
「んっ……あん……んんっ。」
舞衣の顔は恥ずかしさのためか微かに上気し、肩が震えている。
「祐一……。」
「いつも、楯って呼ばれているから照れくさいな。」
「でも、……いいでしょ。」
「あぁ。」

舞衣の体が熱を帯びていくのが祐一にはわかった。
祐一は舞衣を強く抱きしめ、今まで頬にあった右手をゆっくりと胸にもっていく。
「んんんっ……んぅっ!……あっ、あっ。」
弾力のある感触が祐一の手を押し戻す。
その感触を味わうかのように、乳輪と乳首を親指で弄びながら全体を柔らかく味わっていく。
「んはぁ、駄目、駄目だよ。」
肩に置いていた左手を今度は腰から骨盤に這わせるようにして手の平を下半身近くに持っていく。
「んは……んあっ……ん。」
「鴇羽……好きだ。」
「舞衣って、呼んで欲しい。」
舞衣が吐息を漏らしながら、哀願する。
手の平で舞衣の巨乳をゆっくりと撫で回し、その中央にある突起に触れるたび舞衣の体は
《びくんっ!》と反応した。
「舞衣って胸が性感帯なんだな。」
ちょっと意地悪をしたくなった祐一は、舞衣の耳元でそう囁いた。
「……んんっ、意地悪。」
「舞衣のここ勃ってるし。」
「馬鹿……言わない……あん……でよ……。」

だが、隆起した突起を軽く摘まむと、背筋がぴんと伸びたように反応してしまう。
「はうっん!!」
左手が舞衣のスカートの中に滑り込むと、そこは既に洪水状態になっていた。
勃起したクリトリスを刺激するたび、中から指先でも分かるほどの熱い汁が指に絡み付いてくる。
「……もう……だめ……はぁ、あっ、あっ、ああぁ。」
舞衣は軽くイってしまったようだった。
「おい、平気か?」
「ごめ……ん。今度は、あたしが気持ちよくさせてあげるね。」
祐一の行為でイってしまった事により、舞衣の羞恥心が少しずつ薄らいでいく。

舞衣は自分の手を反り返った祐一のモノに添える。
そして、手の平からこぼれるほどの自分の胸を両手で持上げ、深い谷間に挟み込んだ。
「すご……ビクビクしてる……。」
先端の部分に軽くキスをし、舌先でちろちろと舐める。
弾力のある胸に圧迫され、白い肌が茎の部分に吸い付いてくるように圧迫してくる。
「お……い、気持ちよすぎ……だぞ。」
その言葉を聞いた舞衣がより一層胸を外側から圧迫し、胸先の乳首の部分をカリの部分に擦り付けてくる。
タプタプと波打つ胸が揺れるたびに、祐一の先端部分が胸の谷間に出たり入ったりし、その1回ごとに
舞衣の先端を刺激する。
「やっ、あっ、ああぁ、んんっ、んあ、あぁぁ。」
自分で奉仕しながら、自らの性感帯を刺激してしまい、思わず声を漏らしてしまう。

祐一の先端から、透明な粘液がこぼれだす。
その先端部分の液を舌でぺろりと舐め上げた。
「んっ、んん。」
ぞくりという感触で祐一は思わず腰を引いてしまう。
「んっ、んぱ、ちゅっ、んん。」
その様子を見た舞衣が嬉しそうに、愛撫を続けていく。
やがて口の中にゆっくりと先の部分を含み、口の中で舌と唇で圧迫するように吸い始める。
袋の部分に舞の両手が触れる。
中指と人差し指で袋を刺激し、茎の部分を唾液で濡れた胸の谷間で圧迫する。
カリの部分を舌と唇で舐め上げ、一心不乱に奉仕した。
「舞衣、……気持ち……良すぎ。」
気になっていた舞衣の奉仕で自分のモノを刺激されているという視覚的な興奮が、一気に登り詰める感覚を
祐一に与えた。

「もう……ごめっ……!」
「えっ?あっ…んっ!!」
祐一の先端から舞衣の口内にめがけて白い液が降り注ぐ。
「大丈夫か……。」
「祐一の……熱い。」
一瞬、なにが起こったのか理解できず、舞衣は暫らく呆然としていた。

「ねっ、しよ……。」
「いいのか……。」
「んっ。」
舞衣がこくりと頷く。
舞衣の上に重なるように体を合わせた祐一が、再び固さを増した自分のモノの茎の部分を持ち、舞衣の膣口に導こうとした……。

《その時!!!》

「ぐがぁああああああああ〜〜!!!」

空間全体から引きちぎられるような叫び声が聞こえる。
そして、空中の黒い空間が引き裂かれ、光が差し込む。
その向こうから聞きなれた声が聞こえてきた。
「舞衣!!!大丈夫か!!!」

《はいいいいぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜!!!???》

慌てて飛び跳ね起きる2人。
服を無造作に掴み、身支度を半分もできない2人の前に現れたのは、玖我なつきと武田将士であった。

「説明は後だ。時間が無い。あの空間が閉じられる前に脱出するぞ。」

「く、玖珂、どうやってここに?」
そういい終わる前に、将士が祐一の手を引っ張る。
ギリギリの所で空間が閉じていく。

正に一瞬の出来事であった。
4人の目の前にあのデパートの試着室があった。
そこには、命、詩帆ちゃんが心配そうに見ている。

「舞衣!戻ってきた!大丈夫か!」
「お兄ちゃん〜、よかった、戻ってきたよぉ。え〜ん。」
「舞衣。私達を馬鹿にしてくれた分、きっちりと決着をつけるぞ。」
「えっ?あたし、助かったの?初体験は……えっと。はいぃぃ?」

こっちを祐一がじっと見てるし……。
最後だと思ったから……勇気を出して……したのに……これから、どうなっちゃうのよぉおお〜。


「ワルキューレの確保に失敗したようですね。この事は一応委員会に報告します。」
「おい、ちょっと待て。後、もうちょっとだったじゃないか。報告は許さん。」
「分かりました。おとうさま。」
「向こうのワルキューレもそこそこやりますね。」
地下室で机をドンと叩く神父に、蒼い髪の女学生は表情の無い冷たい視線を投げかける。
委員会より神父が解任されたのは、この少し後の事であった。


【鴇羽舞衣と楯祐一編】

おしまい



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