まだ見つからない。全く、舞衣と楯は何処行ったんだ?
しかし、私としたことが不覚を取ったものだ。
確かに2人にいきなり試着室に入ってこられて気が動転したというのはある。
しかし、オーファンに狙われていたのすら気が付かず、しかもその隙を突かれてまんまと捕まるとは……。
だがここに来てから、色々と分かった事もある。
それは、この中では電波が届いているようなのに携帯が繋がらないという事、
この中が有機的な物質でできている事、デュランが呼べないことだ。

「んんっ……。ここ、何処だ。」
「武田、今頃起きたのか。何時までも悠長な奴だな。それから、上着は借りたぞ。
武田のせいで私は下着姿だったからな。」
「下着……玖珂の下着姿……。」

《プッ!》

「貴様!今、卑猥な想像をしたなぁ!」

《ぐいっ!》

「待て、何でもない!してない!玖珂の裸なんか想像してないぞ。」
「では、その鼻から出ているものは何だ。」

《がんっ!》

全くこいつはいやらしい事しか頭にないのか?本当にどうしようもない奴だ。
ふっ、まぁいい。こいつを寝さしている間に邪魔な奴らを片付けておくか。
「出て来い。先ほどから様子を伺っているのは分かっているぞ。」
1匹、また1匹とネズミを大きくしたようなオーファンが現れる。
そして、十数匹のオーファンが取り囲んだ。
じりじりと間合いをつめ、私を襲うチャンスを伺っているようだ。
「この程度の数で私をどうにか出来ると思うとは……舐めるな!」
私は手にエレメントの銃を出現させる……はずだった。
「エレメントが発動しない……。」

一つ、また一つと襲い掛かってくるオーファンを寸前でかわしていく。
だが、それも限度があった。
少しずつ追い込まれ、オーファンの一撃が私の腹部に命中する。
《ぐふっ……》
体…が動かない。
「もう駄目か……。」
そう私が覚悟し、絶望が脳裏をよぎった瞬間……。

「玖珂ぁああああ!!」
私を救ったのは武田の一刀だった。
「やめろ、お前の叶う相手ではない!下がれ。」
「バカヤロォォオ。俺を舐めるなぁ!」
その剣さばきは私の想像を遥かに超えるものであった。
普段の武田はだらしが無い奴としか思っていなかったが、意外とやるではないか。
「武田、意外とやるんだな。見直したぞ。」
「そりゃ、好きな奴守るんなら、実力以上の力が出て当然だ。」
「ば、馬鹿、恥ずかしい事を言うな。」
こいつ、どさくさに紛れて何言っているんだ
私の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「これでは、私がただの役立たずではないか。本来は私がオーファンを倒して、武田を守るはずだったのだぞ。」
《……今、私は武田を守る……守るといったのか……》
私は自分の言った台詞に苦笑した。
私は今まで誰の為でもない、自分の為だけにオーファンと戦ってきたというのに……。
これも最近、舞衣……あの甘ったれの性格の奴と付き合っているせいか……。

《カシャン》

その時、私の手の中にエレメントが出現した。
私はその意味を何となく理解したのだが、あえて考えるのは止めにした。
そして……5分と経たないうちに、目の前のオーファンは私たちの手により全て姿を消した。

「ここが怪物の作った世界の中?」
「そうだ。」
「そんな事、にわかに信じられるか。」
「信じる、信じないはお前の勝手だ。だが、このままここにいたのでは、いずれ私たちがオーファンの餌食になる。
ここはオーファンの作った世界だ。だから、また直ぐ奴の分身が襲ってくるだろう。」
「玖珂、じゃあここから出る方法は無いのか?」
「ある事は……ある。」
「じゃあ、直ぐそれを実行すればいいじゃないか。」
「駄目だ!」
「何故?」
「そ、それは……。」
「お前が駄目だといっても俺はやる。楯と鴇羽だって助けなきゃならないんだろ。その為だったら、俺はどんな事でも
やれる。玖珂は鴇羽達を助けなくてもいいって言うのか?自分勝手な奴だな!」
「……。」
「おい、何とか言えよ。」
「……じゃあ、言ってやる。ここから出るには貴様が私を惚れさせ、一生大切な男になる必要がある。」
「な……何?……今なんて言った?」
「馬鹿、何度も言わせるな。詳しい説明はできん。だが、この世界のオーファンの呪縛から解き放たれるのには、
私に守るべき大切な人が必要なんだ。」

私は自分でも恥ずかしくて何を言っているのか訳が分からなくなっていた。
だが、先ほどの戦闘の時、武田を守るべき人と認識した瞬間にオーファンの影響下から解き放たれてエレメントが出てきた。
そこから導き出される答えは……ここでHiMEの能力を最大限に発揮する為には、親密と思える人間をつくり
その為に力を使うこと。そう言う答えになる。
より強くその人間が親密に思えれば、デュランを呼ぶことも可能だろう。
デュランの能力ならば、この空間の一部を一時的に破壊し、この世界から抜け出すのもできないことではない。
……くそ。でも……でも、何でその相手がよりにもよって、武田なんだ?

「さぁ、早くしろ。私をだ……抱きしめればいい……だろう。」
「……。」
「ど……どうした?私の事が好きなのだろう。す……好きにしていいのだぞ。」
私としたことが声が震える……これはここから出る為の手段なんだ。
別にたいした事ではない。
でも、何でだ?体と声の震えが止まらない。
「……わりぃ。できないわ。」
「……な、なんだと、わ……私では不満なのか?」
「あのなぁ、俺は確かに玖珂が好きだけど、玖珂がその気も無いのにそんなに無理して体を合わせたって好きになれるわけないだろ。」
「私は無理……などしていない。武田だって私の事が好きなのだろう?抱きたいと思うのだろう。ならば私と体をあわせて……。」

《パシンッッッ!!!》

一瞬何が起きたのか分からなかった。
ただ、その後頬から伝わる痛みが全身を駆け巡った。
そして、私は武田に頬を殴られたのだという事を理解した。
「馬鹿野郎!俺が玖珂を思っている気持ちはそんな半端なモンじゃねぇ。今のお前は最低だ……。そんな気持ちで体を許すような
女だったんなら俺はお前を好きになんてならなきゃよかった。」
そのまま武田はぷいっと後ろを向いて、向こうに行ってしまった。
何で?何でだ?糞、馬鹿野郎はお前だ。
糞っ、糞っ、糞っ、何で……何でこうなってしまうんだ。
私は好きなんて言われたことない……いつも孤独だった……いつも自分一人で何でも解決してきた……だから、こんな風に嫌われるのだって
慣れっこのはずだ。
でも……でも……なんで……こんなに涙が堪えられないんだ?
溢れ出る涙が止まらないんだ?
別に軽い気持ちで言ったんじゃない。
もし、武田が相手じゃなかったら……いつも不器用でエッチでどうしようもなくて……でも、私を好きだと言ってくれる
武田じゃなかったら……こんな事言えるはず無いじゃないか。

私は自分自身を呪った。
人に対して不器用な自分を……。
本当は仲良くしたい相手でも、素直になれない自分を。
私はその場でへたり込んで、ずっと溢れるものを堪えずに嗚咽を漏らした。

「あのさ……。」
気が付くと私の目の前にハンカチを持った武田が立っていた。
「そのだな……。」
「その、こちらこそさっきはほんっとうにすまなかった。」
武田が目の前で土下座した。
自分の方が謝ろうとしていたのに、武田に先を越されて思わず苦笑してしまう。
「あの、俺女の子に手を上げるなんて生まれて初めてで、その……あの……大切な玖珂だから自分をそんな軽く言って欲しくなかった
っていうか……そのあのつまり……。」
「先ほどは私こそ悪かったな。」
「いや、俺こそ女の子に手を上げる最低な人間で、もうどうしようもない奴だから。」
「ぷっ……くすくす。」
思わず笑ってしまった。
先ほど私に手を上げたほどの男が今は地べたに額をこすりつけて謝っている。
それと同時に、今まで武田の事を誤解していた自分に少しだけ腹が立っていた。

「いや、笑ってすまなかったな。先ほどは私が悪い……と思う。だが、勘違いしないでくれ。ここを出たら友人からでもよい。
付き合ってくれ。いや……この場合、可愛らしい女性なら下さいといえばいいのか。と、とにかくここを出る為に協力をしてくれ。
いや……して下さい。まぁ、あのだな、決して誰でも良いわけではないぞ。お前だから今だけはそのだな……。」
「俺の気持ちはずっと前から決まっている……お前を。」
「待て。」
「なんだ?」
「その私のファーストキスなのだぞ。その……なんだ。」
「あぁ、優しくするさ。」
「ん……。」

私の唇に武田の唇が押し当てられる。
「ん……んんっ。」
これがキスの味。
随分と柔らかいのものだな。
おい……いつまでやってるんだ……長いぞ。
「んぁ……ふあ……。んんんんっっ……ぷあ!」
「こら!貴様、何時まで……あぁ!」
武田の手が私の胸を触ってきた。
む……く、くすぐったいぞ。だが、我慢だ。
「んっ、んんあ……あはっ、あふ。」
まずいな……何だか声が。
でも、とりあえず下着を試着して新しくしておいたのは正解……だな。

顔が赤い。武田が下着をゆっくりと外してるな。
馬鹿……下着は丁重に扱え。
「ううんっ……はぁっ……ううっ。ん!……んんっ。」
指が突起の部分を刺激する。
こんなにも敏感に感じるものなのか。
「んっ、あぁっ、はぁっ、ふぁっ。」

思わず身をよじってしまう。
「凄く柔らかいな。」
「……ん……恥ずかしいだろ。」
体に電流が走ってる。
びりびりと頭の先、胸の先、足の先の神経が敏感になり頭の中が真っ白になる。
「もうそろそろ……。」
「ああ。いいのか。」
「も、問題ない。それに、少しだがお前の事を愛おしく思えて……んっん。」
ショーツの中に手の先が入ってくる。
中指がゆっくりと私の肉ヒダをまさぐるように上下に動いてきた。
「そこは……だめだ……あ、ああ。」
「自分で頼んでおいて、駄目はひどいな。」
「すまん……刺激が強すぎて……。」
「玖珂は敏感なんだな。」
「あぁ、はぁん……よせって言って……やぁ、んんっ感じすぎて……ふあぁん……やめ……はぁうん。」

自分でも信じられないほど声が出てくる。
それと同時に、武田の事がすごく大切に思えてくる。
「凄いな。後から後から溢れ出てくる。」
「ううっ、はううん……そんな事言うな……ああぁん……ああっ。」
クリトリスに武田の指先が触れる。
コロコロと弄んでそれだけで自分で自慰をする何倍もの快感が襲ってきた。
「ダメ……ふあぁああ……ひゃんっ。ふああぁああああああ。」
「お、おい玖珂。」
その場にうずくまるように倒れてしまった。
あまりの刺激の強さに、軽くイってしまった。
心配そうに武田が覗き込んでくる。
「大丈夫だ。それより、先に……その、なんだ……。」
「気にするな。少し休んだら……また。」
「ああ、そ、そうか。私だけではずるいからな。」
互いに目を合わせて苦笑する。
始めて同士の不器用なお互いの愛撫に、恥ずかしさと気まずさで下を向くしかなかった。


《キキッ……》

その時、何処からか鳴き声が聞こえた。
他の生物。
ここでは、そのような声を出すのは一つしかない。
私たちをこの空間に閉じ込めたオーファンだ。
「武田……その……こっちに来てくれるか。」
「あ、ああ。喜んで。」

《ドスッ》

「何で……。」
みぞおちに放った衝撃で武田がその場で気を失い倒れる。
「すまん。武田をまたこの戦いには巻き込みたくない。それに……HiMEの力は武田の愛情でどうやら使えるようになった
ようだ。ここから出たら、続きをしよう。」

私は洋服を羽織り、右手を高々とかざす。
「守りたいと思うものを得た私は強いぞ。お前たちなど相手ではない!……デュラン!!!」
想いがオーファンの作り出した結界を超え、空中から獣の咆哮が聞こえる。
闇の空間を切り裂き、シルバーの動く獣が現れる。

《ロードクローム=カートリッジ!!!》

「てぇーーー!!」

デュランの肩越しにあるロケットランチャーに弾が装填され、目の前の数十のオーファンの中心で炸裂する。
一瞬でオーファンが凍りつき、吹き飛ばされた衝撃でオーファンの体が四散した。

《てぇーーー!!》
空中の空間に多くの亀裂が走る。
だが、その空間は見る見るうちに修復し、その大きさを縮小させていく。
その内の1つの空間から別のオーファンの倒される鳴き声がかすかに聞こえた。

「デュラン。武田を乗せ、あの空間に。」

私は確信した。
その空間に舞衣と楯を救出する為に飛び込む。
「舞衣!!!大丈夫か!!!」


【数日後】

私たちは救出は成功し、オーファンは倒せた。
あのオーファンは自分の体内に物質を取り込み、その者の能力を消失させる結界を作る能力を要していた。
HiMEの能力を出す為の鍵となる人間との絆すらも外界と断ち切ることで消失できる結界。
推測の域を出ないが、おそらくそういった類の力を持つオーファンだったのだろう。

その分、外部からの攻撃にはからきし弱く、命のエレメントで一刀両断にするのは容易かった。
……あと少し遅れていたら……命は私たちを取り込んだままのオーファンを真っ二つにする予定だった……らしい。
冗談ではないぞ……命。

「おーい。玖珂〜。」
「んっ?時間通りだな。って、貴様、なんでスーツなんて着てるんだ!!」
「何しろが玖珂とのはじめての正式なデートだから、めちゃめちゃ気合入れて……。」
「お前なぁ。まぁいい。行くぞ。」
「で、早速この間の続きを……。」

《ごんっ!》

「馬鹿!!!友達からと言っただろう。この色情魔!」
「でも、そんな浅い仲じゃないんだし、玖珂の可愛い姿だって見てるんだし。」
私の顔がみるみる真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
「帰る!!!」
「おい、冗談だ、冗談。待ってくれ〜〜〜。」

やっぱり武田は武田だ!あれは気の迷いだった!やっぱり私には誰も要らん!男なんて必要ないぞ!


おしまい


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